−映画にもなった−

イワツバメ(1)


 日光に着いたとき、最初に出迎えてくれる鳥はイワツバメ。東武日光駅でもJR日光駅にもイワツバメが巣を作っているからです。
 イワツバメは、ツバメと同じように夏鳥です。そして、渡ってくるのは他のどんな夏鳥よりも早く2月。2月の日光といえば冬真っ盛り、雪の舞う中を飛んでいるのを見たことがあります。こんなに早く渡ってきて、食べ物の昆虫が空中にいるのか心配になります。また、秋は10月中旬頃まで滞在してくれます。それだけに日光に着いて、最初に眼に入る鳥がこのイワツバメであることが多いのです。

 さて、このイワツバメ、いろいろな意味で日光に縁の深い鳥なのです。
 イワツバメは、今では都市鳥のひとつ。東京でも見ることができる多い鳥です。しかし、私がバードウォッチングをはじめた頃の1960年代は、山に行かないと逢うことのできない鳥でした。ところが現在、私が生まれ育った板橋区高島平では、繁殖をしています。ひとつに一面の水田だった環境が、倉庫などの建築物が多数建ち並ぶようになりました。これが、この鳥にとって本来巣を作る崖という環境と同じとなり、繁殖できるようになったと考えられます。要するに都市環境のなかにこの鳥が利用できる要素が多分にあったことになります。
 子供の頃の板橋区にはイワツバメはいなかったため、私が初めてこの鳥を見たのは日光でした。イワツバメのコロニーがあるというのでかつての日光小学校が、修学旅行のコースに入っていたのです。自分の小学校と同じような木造の校舎の窓の上にずらっと並んだツバメの巣を見たことをかすかに覚えています。当時の日光小学校は神橋のそば、現在の小杉放菴記念美術館のある場所にありました。

 あとで、この日光小学校のイワツバメの映画のあることを知りました。タイトルは「五千羽のイワツバメ」。東映が1959年に製作しています。ちょうど私と同じ年代に日光小学校に在学した子供たちが、エキストラとして出演しています。私の住む駒込のワイン屋さんのソムリエのYさんは日光出身、この映画に友人が出演していると懐かしそうに話してくれました。Yさんは、ケーブルTVで放送したこの映画をVTRに録っていました。それを借りて、私も見ることができたのです。
 また、福田会長の奥さんはコーラスのシーンで出演予定だったのですが、先生から「君は出ないとよい」と言われ映画には出られなかったと悔しそうに話してくれました。私も学芸会ではずされたことがあるので、こういうことってけっこうトラウマです。
 さてストーリーは、日光小学校で巣を作るイワツバメに親しみを持っている子供たちが主人公。イワツバメが渡って来るのを楽しみにしていたり、巣から落ちた雛を助けたりしています。ところが、町の有力者がイワツバメの巣があるのは汚い、撤去しようと動き始めます。それを知った子供たちがなんとか鳥たちを守れないかと活動します。
 ある日、東京から鳥類研究所の偉い先生がやってきて「これはたいへん貴重なものである」と言ってくれます。この話が、新聞に出て皆がイワツバメの保護に動きはじめます。町の有力者には子供がいて、この子が横暴な父親をなんとか説得しようと苦労します。そして、子供たちの熱意に折れてイワツバメを追い払おうとした親たちも保護に目覚めて、めでたしめでたしという話です。
 私は涙もろいので、VTRのモノクロ画面が涙でぼやけました。
 今から40年以上も前の話ですが、今でも同じような話は日光でありそうですし、全国でもたくさん起きているとことでしょう。
 この映画のストーリーにある、東京から鳥類学者が視察に来たというのは、本当にあった話です。昭和32(1957)年12月20日に、山階鳥類研究所所長の山階芳麿と日本野鳥の会会長の中西悟堂という今では考えられないゴールデンコンビが日光小学校を訪れています。

 日本野鳥の会の機関誌「野鳥」の25周年記念の200号には、窓辺から顔を出す両巨頭の姿とずらっと並んだイワツバメの巣が写った写真が掲載されています。キャプションには「日光小学校5千羽のイワツバメに糞台を設けることで出張した山階芳麿博士と中西会長」となっています。訪れたのが12月であることを考えると、イワツバメのいない季節に糞で校舎がよごれないように巣の下に棚のようなものを設置したのでしょう。両巨頭がイワツバメのために日光に訪れたと言うことは、それだけ当時は珍しかったことにもなります。
 これらことから日光小学校に5000羽のイワツバメが繁殖していたことがわかります。映画や写真に写っている巣の数を見ると納得できる数字です。現在のイワツバメがもっとも多い駅周辺でも数100羽と言ったところ、市街地全体でもせいぜい1000羽たらずでしょう。

 かつては、もっとたくさんのイワツバメがいて、観光客を出迎えてくれていたことでしょう。

松田道生(2003年6月20日・起稿)

イラスト:水谷高英氏

イワツバメの声(霧降高原大笹牧場)>

※音声を聞くためにはリアルプレヤーがインストールされている必要があります。


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